東京証券取引所で10月1日、株式全銘柄の売買を終日停止するシステム障害が起きた。東証で終日にわたり取引停止となるのは初めての異常事態である。
証券取引所は金融市場や企業活動を支える基幹的なインフラだ。東証は2日、取引を再開したが、過去に幾度も繰り返されたシステム障害の再発は、市場の信頼を損ねる失態と断じざるを得ない。
東証の宮原幸一郎社長は記者会見で売買停止を陳謝し、再発防止策を講じた上で経営責任を明確化する考えを示した。売買の機会を逸した投資家や市場参加者らに対する宮原氏らの責任は重い。
特に東証では2年前にも大規模なシステム障害を起こしたばかりである。こうした教訓を十分に生かせたのか。東証は、システム障害への備えが適切に行われたのかを厳しく検証すべきである。
宮原社長によると、1日の取引開始前に売買システム関連の装置が故障し、相場情報の配信や売買監視の業務に異常が生じた。このため相場情報が正確に配信できなくなり売買を停止したという。
東証の売買システムを手掛けているのは富士通で、このシステムは昨年11月に刷新されている。今回故障した機器の部位も富士通製だったという。
故障製品の解析が必要なのはもちろん、保守や点検などのシステム管理に問題はなかったか。あるいはシステム全体に脆弱(ぜいじゃく)性はないのか。こうした点を含めて、装置の故障を招いた原因や背景を早急に究明しなければならない。
株式市場ではコンピューターで超高速かつ大量の売買を行う取引が広がっている。昨年のシステム刷新も、こうした変化に対応したものだ。ただ、システムが高度かつ複雑化するにつれて安全上の新たなリスクも生じてこよう。
機器の故障だけではなく、外部から不正なアクセスを受ける懸念もある。8月にはニュージーランド証券取引所がサイバー攻撃を受けて取引が停止した。証券取引所は、こうした事態にも目を配る大きな責務を担っていることを改めて認識しておくべきである。
加藤勝信官房長官は、今回の事態について「大変遺憾だ」と述べた。香港が政情不安に陥る中、アジアの国際金融センターとして東京に期待する声もある。だが、トラブルを繰り返すばかりでは、到底、その信頼は得られまい。
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2020年10月2日付産経新聞【主張】を転載しています